歯科コラム

COLUMN

40代、50代、60代でもできるマウスピース矯正
マウスピース矯正

「今さら歯列矯正なんて」「もうこの年齢では無理だろう」そう思って、歯並びの悩みを諦めてしまっている40代、50代、60代の方もいらっしゃるのではないでしょうか。かつて歯列矯正といえば、子供の頃に行うもの、あるいは若い世代がするものというイメージが強かったかもしれません。しかし、医療技術の進歩により、大人になってからでも、そして年齢を重ねてからでも、安全かつ効果的に歯並びを整えることが可能になりました。特に、目立ちにくいマウスピース矯正の登場は、年齢を気にすることなく治療を始めたいと考える多くの大人の方にとって、新たな選択肢となっています。40代、50代、60代といった壮年期・熟年期の方々がマウスピース矯正を検討する上でのポイントなどをお伝えさせていただくます。

 

大人になってからのマウスピース矯正

「歯並びをきれいにしたいけれど、もう年齢的に遅いのでは?」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、歯列矯正に年齢制限は基本的にありません40代、50代、さらには60代以上の方でも、適切な診断と治療計画のもとで、マウスピース矯正を受けることは十分に可能です。

大人の歯並びの悩みは、子供の頃に矯正する機会がなかったというだけでなく、加齢による歯周病の進行、歯の移動、抜歯後の放置、さらには長年の噛み癖などが原因で生じることもあります。見た目の問題だけでなく、噛み合わせの不調による肩こりや頭痛、消化不良、あるいは歯磨きのしにくさからくる虫歯や歯周病のリスク増加など、健康面での影響も無視できません。

マウスピース矯正は、透明なマウスピースを段階的に交換していくことで歯を少しずつ動かしていく治療法です。この方法は、従来のワイヤー矯正に比べて目立ちにくく、取り外しが可能なため、日常生活への影響が少ないという大きなメリットがあります。そのため、仕事やプライベートで人前に出る機会が多い方や、矯正装置の見た目に抵抗がある方でも、比較的気軽に治療を始めることができます。

また、大人になってからの矯正は、お子様の場合と異なり、顎の成長を利用することはできません。しかし、骨代謝のスピードは若い頃よりも緩やかではありますが、歯は一生涯にわたって動き続ける性質があります。そのため、適切な矯正力を加えることで、何歳からでも歯を動かし、理想的な歯並びと噛み合わせを目指すことが可能です。重要なのは、現在の歯周組織の状態をしっかりと評価し、無理のない範囲で治療を進めることです。

マウスピース矯正を始めるタイミング

「歯並びを整えたい」という気持ちはあっても、「今から始めても遅くないだろうか」「始めるのに良いタイミングはあるのだろうか」と考える方もいらっしゃるかもしれません。特に40代、50代、60代といった壮年期・熟年期の方々にとって、マウスピース矯正を始める最適なタイミングは、いくつかの要素を考慮して判断することが重要です。

【マウスピース矯正を始める最適なタイミング】

  1. 歯周病が落ち着いている時:
    • 最も重要な条件: 大人の矯正治療において、最も重視されるのが歯周組織の健康状態です。歯周病が進行している状態で矯正治療を行うと、歯周病が悪化したり、歯がグラグラになったりするリスクがあります。
    • 治療の優先順位: 歯周病がある場合は、まず歯周病の治療を優先し、歯ぐきの炎症が治まり、歯を支える骨の状態が安定していることを確認してから矯正治療を開始します。
    • 定期的なメンテナンス: 矯正治療中も、定期的な歯周病のメンテナンスを継続することが非常に大切です。
  2. 虫歯が治療済みである時:
    • 矯正治療を開始する前に、現在ある虫歯はすべて治療しておくことが望ましいです。
    • 虫歯がある状態で矯正を進めると、マウスピースが適合しにくくなったり、虫歯が進行して治療計画に影響が出たりする可能性があります。
    • 治療中に新たな虫歯ができた場合は、その都度適切な処置を行います。
  3. 全身の健康状態が安定している時:
    • 糖尿病や骨粗しょう症など、全身疾患をお持ちの場合でも矯正治療は可能ですが、病状が安定していることが前提となります。
    • これらの疾患は、歯の動きや骨の状態に影響を与える可能性があるため、主治医と連携し、歯科医師と十分に相談することが重要です。
  4. ライフスタイルに合わせた計画が立てられる時:
    • マウスピース矯正は、120時間以上の装着時間が求められます。仕事や趣味、旅行など、ご自身のライフスタイルの中で、この装着時間を継続できるかどうかが成功の鍵となります。
    • 通院頻度はワイヤー矯正に比べて少ない傾向にありますが、定期的なチェックやマウスピースの受け取りのために通院が必要となります。無理なく通院できる時期を選ぶことも大切です。
  5. 「歯並びを治したい」という強い意思がある時:
    • 矯正治療は、短期間で終わるものではありません。数ヶ月から数年にわたる期間、マウスピースの装着や口腔ケアを継続していく必要があります。
    • 「歯並びを治して、もっと自信を持ちたい」「健康のために改善したい」というご自身の明確な目標と強い意思が、治療を成功させる原動力となります。

年齢を重ねてからでも、歯並びを整えることで、見た目の改善はもちろん、噛む機能の向上、歯磨きのしやすさによる虫歯・歯周病予防、そして全身の健康維持にもつながります。ご自身の健康状態やライフスタイルを考慮し、最適なタイミングで矯正治療を始めることを検討してみてはいかがでしょうか。

 

大人になってから始める矯正の種類

大人になってから歯列矯正を考える際、選択肢は一つだけではありません。患者様のお口の状態、ライフスタイル、そして審美性へのご希望に応じて、いくつかの矯正装置の中から最適なものを選ぶことができます。

【大人になってから始める主な矯正の種類】

  1. マウスピース矯正(インビザラインなど):
    • 概要: 透明なプラスチック製のマウスピースを段階的に交換していくことで、歯を少しずつ動かす矯正方法です。
    • 特徴:
      • 目立ちにくい: 透明なため、装着していてもほとんど気づかれにくいです。これが最大のメリットと感じる方が多くいらっしゃいます。
      • 取り外し可能: 食事や歯磨きの際に自分で取り外せるため、普段通りに食事が楽しめ、口腔内を清潔に保ちやすいです。虫歯や歯周病のリスクを低減できます。
      • 痛みが少ない傾向: 弱い力を継続的に加えるため、ワイヤー矯正に比べて痛みが少ないと感じる方が多いです。
      • 通院回数が少ない: 一度に複数枚のマウスピースをお渡しできるため、ワイヤー矯正に比べて通院頻度を抑えられる傾向があります。
    • 向いている方:
      • 矯正装置が目立つことに抵抗がある方。
      • 仕事やプライベートで人前に出る機会が多い方。
      • ご自身で装着時間を管理できる方。
      • 比較的軽度から中程度の歯並びの乱れの方。
    • 注意点: 1日20時間以上など、定められた装着時間を守ることが治療成功の絶対条件です。
  2. ワイヤー矯正(表側矯正):
    • 概要: 歯の表面にブラケットと呼ばれる小さな装置を接着し、そこにワイヤーを通して歯を動かす、最も一般的な矯正方法です。
    • 特徴:
      • 幅広い症例に対応: 非常に多くの歯並びの乱れに対応でき、複雑な症例でも高い効果が期待できます。
      • 安定した治療効果: 矯正専門医が緻密な調整を行うことで、確実な歯の移動が可能です。
    • 向いている方:
      • 幅広い症例に対応できる治療法を希望する方。
      • 費用を抑えたい方(一般的にマウスピース矯正より費用が抑えられることがあります)。
    • 注意点:
      • 装置が目立ちやすいです。
      • 食事や歯磨きがしにくくなることがあります。
      • 装置が粘膜に当たって口内炎ができることがあります。
  3. 裏側矯正(舌側矯正):
    • 概要: ワイヤー矯正の一種ですが、ブラケットを歯の裏側(舌側)に装着するため、外からは見えません。
    • 特徴:
      • 全く見えない: 矯正装置が完全に隠れるため、誰にも気づかれずに矯正を進めたい方に最適です。
    • 向いている方:
      • 矯正装置の見た目を最も重視する方。
    • 注意点:
      • 費用が最も高額になる傾向があります。
      • 舌に装置が当たって発音しにくくなったり、口内炎ができやすかったりすることがあります。
      • 歯磨きがしにくい場合があります。

これらの矯正方法の中から、患者様のお口の状態やご希望、そしてライフスタイルを総合的に考慮し、最適な治療計画を立てることが重要です。まずは、ご自身の歯並びの状態と、それぞれの治療法の可能性について、歯科医師とじっくり相談することをお勧めします。

大人になってから矯正歯科のリスク

大人になってから歯列矯正を始めることは、見た目の改善だけでなく、噛む機能の向上や口腔全体の健康維持に多くのメリットをもたらします。しかし、若い頃の矯正治療とは異なり、年齢を重ねたことによる口腔内の変化や生活習慣によって、いくつかの考慮すべきリスクも存在します。これらのリスクを事前に理解し、歯科医師と十分に相談することが、安全かつ成功する治療への鍵となります。

【大人になってから矯正歯科のリスクと対策】

  1. 歯周病の進行と悪化:
    • リスク: 大人の方の多くは、程度の差こそあれ歯周病を抱えている場合があります。矯正治療中に歯周病が進行すると、歯を支える骨がさらに溶け、歯がぐらついたり、最悪の場合、歯を失う可能性が高まります。
    • 対策: 矯正治療を開始する前に、まず徹底した歯周病治療を行い、歯ぐきや骨の状態を安定させることが不可欠です。治療中も、歯科医院での定期的な歯周病のメンテナンス(プロフェッショナルクリーニングなど)を継続し、毎日の丁寧なセルフケアが重要です。
  2. 歯根吸収(しこんきゅうしゅう):
    • リスク: 矯正治療によって歯を動かす過程で、歯の根の先端が短くなる「歯根吸収」が起こることがごくまれにあります。これは、歯に無理な力がかかったり、歯周病があったりする場合にリスクが高まると言われています。
    • 対策: 矯正専門医が適切な矯正力をコントロールし、定期的にレントゲンで歯根の状態をチェックすることで、リスクを最小限に抑えます。
  3. 顎関節への影響:
    • リスク: 矯正治療によって噛み合わせが変化する過程で、顎関節に痛みや不快感が生じる「顎関節症」のような症状が出ることがあります。
    • 対策: 事前に顎関節の状態をしっかり評価し、治療計画に反映させることが重要です。治療中に症状が出た場合は、早めに歯科医師に伝え、適切な対処(噛み合わせの調整、マウスピースの装着など)を行います。
  4. 虫歯のリスク:
    • リスク: マウスピースを装着することで、唾液による自浄作用が働きにくくなるため、歯磨きが不十分だと虫歯のリスクが高まることがあります。
    • 対策: マウスピースを外した際の丁寧な歯磨きと、定期的な歯科検診が非常に重要です。フッ素塗布やシーラントなどの予防処置も有効です。
  5. 後戻り:
    • リスク: 矯正治療で歯並びが整った後、保定期間中に適切な保定装置(リテーナー)を使用しないと、歯が元の位置に戻ろうとする「後戻り」が起こることがあります。
    • 対策: 治療終了後も、歯科医師の指示に従い、保定装置を決められた期間、適切に装着することが最も重要です。
  6. 全身疾患との関連:
    • リスク: 糖尿病や骨粗しょう症などの全身疾患をお持ちの場合、歯の動きや骨の状態に影響が出ることがあります。
    • 対策: 矯正治療を開始する前に、全身疾患について必ず歯科医師に伝え、必要であれば主治医と連携し、病状を安定させてから治療を進めることが大切です。

これらのリスクは、適切な診断、綿密な治療計画、そして患者様ご自身の協力によって、ほとんどの場合、最小限に抑えることができます。特に、大人の矯正治療においては、口腔内の健康状態が治療の成否を大きく左右するため、矯正専門の知識と経験を持つ歯科医師のもとで治療を受けることが非常に重要です。

まとめ

40代、50代、60代といった壮年期・熟年期の方々にとって、「今から歯列矯正なんてできるの?」という疑問は当然のことかもしれません。しかし、これまでの解説でお分かりいただけたように、年齢は歯列矯正の絶対的な障壁ではありません。医療技術の進歩、特にマウスピース矯正の登場により、大人になってからでも、目立たず、比較的快適に歯並びを整えることが可能になりました。

【大人になってから始めるマウスピース矯正の主なポイント】

  • 年齢制限なし: 歯周組織が健康であれば、何歳からでも矯正治療は可能です。諦める必要はありません。
  • 始めるタイミング: 歯周病や虫歯が安定していること、そしてご自身のライフスタイルに合わせて、継続的にマウスピースを装着できるかが重要です。治療開始前には、口腔内の徹底的な検査と治療が不可欠となります。
  • 矯正の種類: マウスピース矯正は、その目立ちにくさや取り外し可能という点で、大人の方に非常に人気の高い選択肢です。しかし、症例によってはワイヤー矯正や裏側矯正など、他の方法が適している場合もあります。
  • リスクと対策: 歯周病の進行、歯根吸収、顎関節への影響などのリスクはありますが、精密な診断と経験豊富な歯科医師による適切な治療計画、そして患者様ご自身の丁寧なケアと定期的なメンテナンスによって、これらのリスクは最小限に抑えることができます。

歯並びの改善は、見た目の自信を取り戻すだけでなく、噛む機能の向上、歯磨きのしやすさによる虫歯・歯周病予防、そして全身の健康維持にもつながる、まさに「未来への投資」と言えるでしょう。長年の歯並びの悩みを解決したい、健康的なお口で快適な生活を送りたいとお考えの方は、ぜひ一度、歯科医師にご相談ください。ご自身の現在の状態と、どのような治療の選択肢があるのかを知ることから、新しい一歩が始まります。

 

当記事の監修editor

院長 宍戸孝太郎
医療法人社団 孝親会 理事長
宍戸 孝太郎
資格・所属学会
厚生労働省認定歯科医師臨床研修医指導医
SBC(Surgical Basic Course 歯周形成外科コース)インストラクター
SAC講師
club SBC
日本口腔インプラント学会認定医
日本口腔外科学会会員