歯科コラム

COLUMN

なぜ歯と歯の間に虫歯はできるのか?
予防ケアについて虫歯

歯磨きを毎日しっかりしているつもりでも、歯科検診で「歯と歯の間に虫歯がありますね」と指摘されて驚いた経験はありませんか? 見た目では分かりにくく、痛みも感じにくい「歯と歯の間の虫歯」は、気づかないうちに進行してしまう厄介な存在です。一般的な歯磨きだけでは届きにくいこの部分の虫歯は、なぜできてしまうのでしょうか。そして、どのように予防し、治療すれば良いのでしょうか。

歯と歯の間にできる虫歯は、隣接面う蝕(りんせつめんうしょく)と呼ばれ、一般的な虫歯とは異なる特徴と原因を持っています。この部分が虫歯になりやすいのは、いくつかの理由があります。

  • 清掃が非常に難しいから
    歯ブラシの毛先は、歯の平らな面や噛み合わせの面には届きやすいですが、歯と歯が接している隙間にはほとんど届きません。この狭い隙間には、食べカスやプラーク(歯垢)が非常に溜まりやすく、いったん溜まってしまうと、通常の歯磨きだけでは除去することが困難です。特に、歯並びが少しでも複雑な場合や、歯と歯の間に隙間がない場合は、さらに清掃が難しくなります。
  • 唾液の自浄作用が届きにくいから
    唾液には、食べカスを洗い流したり、酸を中和したり、歯の再石灰化(修復)を促したりする「自浄作用」があります。しかし、歯と歯の間の狭い部分には、唾液が十分に流れ込みにくいため、この自浄作用が働きにくくなります。結果として、一度プラークが形成されると、そこが酸性に傾いた状態が長く続き、虫歯菌が活発に活動しやすい環境になってしまいます。
  • 虫歯菌の温床になりやすいから
    プラークの中には、食べ物の糖分をエサにして酸を作り出す虫歯菌が潜んでいます。歯と歯の間にプラークが溜まり続けると、虫歯菌が作り出す酸によって、歯のエナメル質が溶かされ始めます。この部分の歯は、エナメル質が薄いこともあり、一度虫歯になると進行が速い傾向があります。
  • 見た目で気づきにくいから
    奥歯の歯と歯の間はもちろん、前歯の間でも、初期の虫歯は表面からは見えにくく、自分では気づきにくいことがほとんどです。そのため、気づいた時にはすでに虫歯が進行してしまっているケースも少なくありません。

このように、歯と歯の間に虫歯ができるのは、清掃の難しさ、唾液の作用が届きにくいこと、そして虫歯菌が繁殖しやすい環境が重なるためです。日々の口腔ケアでこの部分に意識を向けることが、虫歯予防の鍵となります。

歯と歯の間に虫歯は気づきにくい?

「歯と歯の間に虫歯があるなんて、全く気づかなかった!」と、歯科医院で言われて驚く方は少なくありません。その理由は、この部分の虫歯が持ついくつかの特徴にあります。

  • 見た目で分かりにくい
    歯の表面や噛み合わせの面にできる虫歯は、黒い点や穴として比較的見つけやすいですが、歯と歯の間の虫歯は、隣接する歯によって隠れてしまうため、肉眼では非常に発見しにくいです。特に奥歯の場合、ご自身で鏡を見てもほとんど確認できません。
  • 初期には痛みが少ない
    虫歯が進行すると痛みを感じることが多いですが、歯と歯の間の虫歯は、初期の段階では痛みやしみる症状が出にくい傾向があります。これは、虫歯の進行が歯の表面(エナメル質)の内部でゆっくりと進むためです。痛みを感じるようになった時には、すでに虫歯がかなり進行している、あるいは隣の歯にも虫歯が移ってしまっているというケースも少なくありません。
  • レントゲン検査が重要
    歯科医師が歯と歯の間の虫歯を発見するために、レントゲン検査は非常に重要な役割を果たします。レントゲン写真では、歯の内部や隣接面の骨の状態を詳しく確認できるため、肉眼では見えない初期の虫歯や、進行した虫歯の範囲を正確に把握することができます。
  • デンタルフロスの引っかかりや切れ
    ご自身でデンタルフロスを使用している方の場合、特定の場所でフロスが引っかかったり、ほつれたり、切れてしまうことがあります。これは、虫歯によって歯の表面がザラザラになっていたり、穴が開いていたりするサインかもしれません。このような異変を感じたら、歯と歯の間の虫歯を疑い、歯科医院を受診することをおすすめします。

このように、歯と歯の間の虫歯は自覚症状が出にくく、発見が遅れがちです。そのため、日頃からデンタルフロスなどの補助清掃用具を活用すること、そして定期的に歯科検診を受け、専門家によるチェックやレントゲン検査を受けることが、早期発見・早期治療に繋がります。

歯と歯の間に虫歯を防ぐために

歯と歯の間の虫歯は、見つけにくく進行しやすい特性があるため、予防が非常に重要になります。毎日の歯磨きに加えて、以下のポイントを実践することで、虫歯のリスクを効果的に減らすことができます。

  • デンタルフロスや歯間ブラシの活用
    歯ブラシの毛先が届かない歯と歯の間のプラーク(歯垢)や食べカスを除去するには、デンタルフロスや歯間ブラシの使用が不可欠です。
    • デンタルフロス: 歯と歯の隙間が狭い方におすすめです。フロスをゆっくりと歯と歯の間に挿入し、歯の側面をこするように数回往復させて汚れをかき出します。新しい面を使って、隣の歯も同じように清掃しましょう。
    • 歯間ブラシ: 歯と歯の隙間が比較的広い方や、ブリッジやインプラントがある方におすすめです。歯間の隙間に合ったサイズの歯間ブラシを選び、歯の隙間に挿入して数回往復させて清掃します。
    • どちらの器具も、無理に挿入すると歯茎を傷つける可能性があるため、正しい使い方を歯科医院で指導してもらうことが大切です。
  • 正しい歯磨き習慣の確立
    歯ブラシだけでは歯と歯の間は磨けませんが、歯の表面や歯茎の境目のプラークをしっかり除去することで、口腔内全体の細菌の数を減らし、虫歯のリスクを低減できます。歯磨きの際は、以下の点に注意しましょう。
    • 時間をかけて丁寧に: 最低でも23分間は磨くようにしましょう。
    • 力を入れすぎない: 強い力で磨くと歯茎を傷つけたり、歯が削れたりする原因になります。歯ブラシの毛先が広がらない程度の軽い力で磨きましょう。
    • フッ素入り歯磨き粉の活用: フッ素は歯質を強化し、虫歯菌が酸を作るのを抑える効果があります。
  • 食生活の見直し
    • 糖分の多い飲食物の摂取回数を減らすことが、虫歯予防には非常に重要です。特にだらだら食べや、甘いものを頻繁に口にする習慣は、口腔内が酸性に傾く時間を長くし、虫歯のリスクを高めます。
    • 間食を減らし、もし摂る場合は、甘いものや粘着質の食べ物を避け、水やお茶を飲む習慣をつけましょう。
  • 定期的な歯科検診
    ご自身でのケアだけでは限界があります。少なくとも半年に一度は歯科医院で定期検診を受けましょう。
    • 歯科医院では、専門的な機器で歯と歯の間の虫歯を早期に発見できます(レントゲン検査も有効です)。
    • プロフェッショナルクリーニング(PMTC)で、普段の歯磨きでは落としきれないプラークや歯石を徹底的に除去してもらえます。
    • 歯科医師や歯科衛生士から、ご自身に合った正しい口腔ケアの方法について、具体的なアドバイスを受けることができます。

これらの予防策を継続的に実践することで、歯と歯の間の虫歯のリスクを大幅に減らし、お口の健康を長く維持することができるでしょう。

歯と歯の間の虫歯治療方法

歯と歯の間にできた虫歯(隣接面う蝕)は、発見が遅れがちなため、気づいた時にはある程度進行しているケースも少なくありません。虫歯の進行度合いによって、治療方法は異なります。

  1. ごく初期の虫歯(C0:要観察歯)

この段階は、まだ穴が開いていない、歯の表面がわずかに脱灰(溶け始め)している状態です。

  • 治療方法: 歯を削る必要はありません。
    • フッ素塗布: 歯科医院で高濃度のフッ素を塗布することで、歯の再石灰化(修復)を促し、歯質を強化します。
    • 徹底したセルフケア指導: デンタルフロスや歯間ブラシの正しい使い方を指導し、ご自宅での丁寧な清掃を徹底してもらいます。
    • 定期的な経過観察: 定期的に歯科医院でチェックし、虫歯が進行していないかを確認します。
  1. エナメル質の虫歯(C1

虫歯がエナメル質に限局している段階です。この段階では自覚症状がないことがほとんどです。

  • 治療方法: 虫歯の部分を最小限に削り、詰め物で修復します。
    • ダイレクトボンディング(レジン充填): 小さな虫歯であれば、虫歯の部分を削り、歯の色に近い歯科用プラスチック(レジン)を直接詰めて形を整えます。この方法は、歯を削る量が少なく、1回の治療で完了することが多いです。
    • インレー(部分的な詰め物): 虫歯の範囲がやや広い場合や、奥歯など噛む力が強くかかる部分では、型取りをして作製した詰め物(インレー)を装着することがあります。セラミックや金属などの素材があります。
  1. 象牙質まで達した虫歯(C2

虫歯がエナメル質の内側にある象牙質にまで達した段階です。冷たいものがしみたり、軽い痛みを感じたりすることがあります。

  • 治療方法: 虫歯の範囲が広がるため、詰め物や被せ物での修復が必要になります。
    • ダイレクトボンディングまたはインレー: 虫歯の範囲が比較的狭ければ、C1と同様にレジン充填やインレーで対応します。
    • クラウン(被せ物): 虫歯が広範囲に及ぶ場合や、歯と歯の間の大きな虫歯で歯の大部分が失われている場合は、歯を全体的に削り、型取りをして作製したクラウン(被せ物)を装着します。セラミックや金属などの素材があります。
  1. 歯髄(神経)まで達した虫歯(C3

虫歯が歯の神経(歯髄)まで達し、強い痛みやズキズキとした拍動性の痛みを感じる段階です。

  • 治療方法: 根管治療が必要になります。
    • 根管治療: 虫歯菌に感染した神経や血管を歯の根の中から取り除き、根の中を洗浄・消毒します。感染がなくなったら、薬剤を詰めて密閉し、その上に土台を立ててクラウン(被せ物)を装着します。根管治療は複数回の通院が必要となることが多いです。
  1. 歯の根だけが残った状態(C4

歯の大部分が崩壊し、歯の根だけが残っている状態です。

  • 治療方法: 抜歯が検討されます。
    • 抜歯: 歯を残すことが難しい場合、抜歯を行います。抜歯後は、ブリッジ、入れ歯、インプラントなどの方法で失った歯の機能を回復させる治療が必要になります。

歯と歯の間の虫歯は、気づかないうちに進行しやすいため、定期的な歯科検診と、デンタルフロスや歯間ブラシを使った毎日の清掃が何よりも重要です。異常を感じたら、早めに歯科医院を受診して、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。

最後に

歯と歯の間にできる虫歯は、隣接面う蝕と呼ばれ、その特性から見つけにくく、知らないうちに進行してしまうことがあります。主な原因は、歯ブラシが届きにくい狭い隙間にプラーク(歯垢)が溜まりやすいこと、そして唾液の自浄作用が届きにくいことによる細菌の繁殖です。初期には痛みなどの自覚症状が少ないため、気づいた時にはすでに進行しているケースも珍しくありません。

この厄介な歯と歯の間の虫歯を防ぐためには、毎日の歯磨きに加えて、デンタルフロスや歯間ブラシの活用が不可欠です。これらを正しく使用することで、歯ブラシでは届かない隙間の汚れを効果的に除去できます。また、糖分の摂取を控えるなど、食生活の見直しも重要です。

もし歯と歯の間に虫歯ができてしまった場合、その治療方法は虫歯の進行度合いによって異なります。ごく初期であればフッ素塗布やセルフケアの徹底で進行を抑えられますが、進行すると歯を削って詰め物や被せ物で修復したり、神経まで達した場合は根管治療が必要になったりします。

ご自身の歯を守るために、定期的に歯科医院で検診を受け、専門家によるチェックやクリーニング、そして適切な清掃指導を受けることが、歯と歯の間の虫歯の早期発見・早期治療、そして予防に繋がります。お口の健康を維持し、快適な毎日を送るために、日頃からのケアと定期的な歯科受診を心がけましょう。

当記事の監修editor

院長 宍戸孝太郎
医療法人社団 孝親会 理事長
宍戸 孝太郎
資格・所属学会
厚生労働省認定歯科医師臨床研修医指導医
SBC(Surgical Basic Course 歯周形成外科コース)インストラクター
SAC講師
club SBC
日本口腔インプラント学会認定医
日本口腔外科学会会員