歯科コラム

COLUMN

8020運動とは?80歳で20本の歯を残すために
その他予防ケアについて

ご自身の歯の健康を考える皆様へ

8020(ハチマルニイマル)運動」という言葉をご存知でしょうか?これは、80歳になってもご自身の歯を20本以上保ちましょう、という厚生労働省が推奨している国民的な健康づくりの運動です。20本以上の歯があれば、ほとんどの食べ物を噛み砕くことができ、美味しく食事ができると言われています。しかし、80歳で20本の歯を残すことは、決して簡単なことではありません。若い頃からの日々のケアと、定期的な歯科検診が非常に重要になってきます。

8020運動とは?目的と意義

8020運動とは、正式には80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという、厚生労働省と日本歯科医師会が推進している運動です。人間の歯は親知らずを含めて通常32本、親知らずを除けば28本あります。そのうち20本以上の歯が残っていれば、ほとんどの食べ物を美味しく噛み砕くことができ、健康的な食生活を送ることができるとされています。

この運動の最大の目的は、「健康寿命の延伸」です。ご自身の歯でしっかりと噛めることは、単に食事を楽しむだけでなく、全身の健康と深く関係しています。例えば、よく噛むことで脳に刺激が与えられ、認知症の予防につながると言われています。また、消化吸収を助け、肥満や生活習慣病のリスクを減らす効果も期待できます。

8020運動は、歯の健康が全身の健康につながるという歯の健康から全身の健康へという考え方を広めることを目的としています。虫歯や歯周病を予防し、一本でも多くの歯を残すことが、いきいきとした老後を送るための重要な要素なのです。

8020運動の達成率

8020運動は、長年にわたり国を挙げて推進されてきました。この運動が始まった当初、80歳の方で20本以上の歯が残っている人の割合は、わずか数パーセントでした。しかし、予防歯科の重要性が広く認識され、歯科医療の進歩とともに、その達成率は年々向上しています。

厚生労働省の「歯科疾患実態調査」によると、8020運動の達成率は以下の通りに推移しています。

  • 2005: 24.1%
  • 2011: 35.1%
  • 2016: 51.2%
  • 2022: 58.0%

このように、2016年には達成率が初めて50%を超え、現在では2人に1人以上が目標を達成しています。これは、国民一人ひとりの口腔ケアに対する意識が高まった結果と言えるでしょう。

しかし、まだ約半数の方が80歳までに20本以上の歯を残せていないという現実もあります。この背景には、歯周病や虫歯を放置してしまうことや、歯科医院への定期的な通院が習慣化されていないことなどが挙げられます。8020運動の達成率をさらに高めるためには、乳幼児期からの予防ケアや、年齢を重ねても定期的に歯科医院に通い続けることが重要です。

定期的な歯科検診の重要性

8020運動の達成率が向上している背景には、口腔ケアに対する意識の高まりと、定期的な歯科検診の習慣化が大きく影響しています。ご自宅での毎日の歯磨きだけでは、どうしても磨き残しが生じてしまいます。特に歯と歯の間や、歯と歯茎の境目は、歯垢が溜まりやすく、虫歯や歯周病の原因となりやすい場所です。

定期的な歯科検診では、以下のような専門的なケアを受けることができます。

  • 歯垢・歯石の除去: 歯科医院では、ご自身では取りきれない歯垢や歯石を専門的な器具を使ってきれいに取り除きます。これにより、虫歯や歯周病のリスクを大幅に減らすことができます。
  • 虫歯・歯周病の早期発見: 痛みなどの自覚症状がない初期の虫歯や歯周病も、定期検診で早期に発見することができます。早期に治療を始めることで、治療期間や身体への負担を最小限に抑えられます。
  • 正しい歯磨き方法の指導: 患者様一人ひとりの歯並びや磨き癖に合わせて、より効果的な歯磨き方法を歯科衛生士が丁寧に指導します。これにより、ご自宅でのセルフケアの質が向上します。
  • 口腔内の健康チェック: 歯や歯茎だけでなく、舌や粘膜、噛み合わせの状態など、お口全体の健康状態を総合的にチェックします。

ご自身の歯を一本でも多く残すためには、自覚症状がなくても歯科医院に定期的に通い、予防に努めることが非常に重要です。

8020運動を支える生活習慣

80歳で20本の歯を残すためには、毎日の生活習慣も大きく影響します。日々のちょっとした心がけが、将来の歯の健康を左右すると言っても過言ではありません。

食事習慣の改善

  • よく噛んで食べる: よく噛むことは唾液の分泌を促します。唾液には、歯の再石灰化を助けたり、口の中の細菌を洗い流したりする働きがあり、虫歯や歯周病の予防に役立ちます。
  • バランスの取れた食生活: 歯の健康に必要なカルシウムやビタミンなどの栄養素をバランス良く摂取しましょう。特に、ビタミンCは歯茎を健康に保つために、ビタミンDはカルシウムの吸収を助けるために重要です。
  • だらだら食べをしない: 食事の回数が多いと、口の中が酸性になる時間が長くなり、虫歯のリスクが高まります。規則正しい時間に食事を摂ることを心がけましょう。

口腔ケアの徹底

  • 正しい歯磨き: 毎食後、特に寝る前の歯磨きを丁寧に行うことが大切です。歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやデンタルフロスも併用して、歯と歯の間や歯周ポケットの汚れをしっかりと除去しましょう。
  • 舌のケア: 舌に付着した汚れ(舌苔)も、口臭の原因になるだけでなく、細菌の温床となります。舌ブラシなどで優しく清掃することで、口腔内環境をより清潔に保てます。

これらの生活習慣を身につけることは、単に歯を守るだけでなく、全身の健康を維持するためにも役立ちます。8020運動は、健康な歯を保つためのゴールでもありますが、同時に健康な体づくりのスタートラインでもあるのです。

8020運動のまとめ

8020運動は、80歳で20本以上の自分の歯を残し、健康で豊かな生活を送ることを目指す国民的な運動です。この目標を達成するためには、日々のセルフケアと歯科医院での定期的なプロフェッショナルケアが不可欠です。

  • セルフケア: 毎日の歯磨きを丁寧に行うことはもちろん、歯間ブラシやデンタルフロスを併用して、歯と歯の間の汚れもしっかりと取り除くことが重要です。
  • プロフェッショナルケア: どんなに丁寧なセルフケアをしていても、磨き残しは発生します。定期的に歯科医院に通い、専門家による歯石の除去や歯のクリーニング、虫歯や歯周病のチェックを受けることが、お口の健康を維持するための最も効果的な方法です。

8020運動は、単に歯を数えるだけの目標ではありません。ご自身の歯で美味しく食事をし、人と楽しく会話をし、笑顔でいられることは、生活の質(QOL)を大きく向上させます。また、お口の健康は全身の健康と密接に関わっており、糖尿病や心臓病などの病気のリスクを減らすことにもつながります。

私たちは、患者様が80歳、そしてそれ以降もご自身の歯で健康な生活を送れるよう、全力でサポートしたいと考えています。毎日の小さな積み重ねが、将来の大きな健康につながります。今日から、ご自身の歯の健康について考えてみませんか?

 

当記事の監修editor

院長 宍戸孝太郎
医療法人社団 孝親会 理事長
宍戸 孝太郎
資格・所属学会
厚生労働省認定歯科医師臨床研修医指導医
SBC(Surgical Basic Course 歯周形成外科コース)インストラクター
SAC講師
club SBC
日本口腔インプラント学会認定医
日本口腔外科学会会員