歯科コラム

COLUMN

子供の指しゃぶり。将来の歯並びに影響が出る?
お子様の治療矯正歯科

お子様の指しゃぶりで悩む保護者の方へ

赤ちゃんや小さなお子様にとって、指しゃぶりは心を落ち着かせるための自然な行動であり、発達の一環として多く見られます。「いつかは自然にやめるだろう」と思っていても、3歳、4歳を過ぎても指しゃぶりが続いていると、「このままでは将来の歯並びに影響が出るのではないか?」と心配になる方も多いのではないでしょうか。この行動が、お口の成長や歯の並びに与える影響は、指しゃぶりの頻度強さ、そしてやめる時期によって大きく変わってきます。指しゃぶりは単なる癖ではなく、お子様の心理的な安定とも深く関わるため、無理に止めさせようと焦る必要はありませんが、歯並びへの具体的な影響について正しい知識を持つことは大切です。ここでは、お子様の指しゃぶりが将来の歯並びにどのような影響を及ぼす可能性があるのか、そしていつ頃までにやめることが望ましいのかについて、一緒に考えていきましょう。

歯並びに指しゃぶりは影響するのか?

お子様の歯並びを心配されている方へ

結論から申し上げますと、長期間続く指しゃぶりは、お子様の歯並びや顎の成長に影響を及ぼす可能性が高いです。ただし、3歳頃までの指しゃぶりであれば、多くの場合、お子様が自然にやめることで歯並びの異常は自然に改善に向かうため、過度な心配はいりません。問題となるのは、4歳を過ぎても頻繁に、または強い力で指しゃぶりが習慣化しているケースです。指しゃぶりが歯並びに影響を及ぼす主なメカニズムと、引き起こされる可能性のある具体的な歯並び(不正咬合)は以下の通りです。

指しゃぶりが歯並びに影響するメカニズム

  1. 持続的な物理的な力: 指を吸う際、指の腹が上の前歯を前方に押し出し、下の前歯を内側に倒すような力が持続的に加わります。
  2. 顎の発達の抑制: 指を吸い込む動作によって、上下の顎の骨の正常な発育が妨げられたり、顎の形態にゆがみが生じたりすることがあります。
  3. 舌の位置の異常: 指が常に口の中にあることで、正しい舌の位置(スポット)に舌を置くことができなくなり、低位舌(舌が低い位置にある状態)の原因となり、口呼吸や嚥下(飲み込み)の癖にも影響します。

引き起こされる可能性のある歯並びの異常

歯並びの異常(不正咬合)

特徴

影響

開咬(オープンバイト)

上下の前歯が噛み合わず、隙間ができてしまう状態。指しゃぶりの力が最も強く影響します。

前歯で食べ物を噛み切れない、発音(特にサ行、タ行)に影響が出る。

上顎前突(出っ歯)

上の前歯が過度に前方に出てしまう状態。指で上の歯を押す力が原因です。

口元が出た印象になる、前歯をぶつけやすい、口が閉じにくい。

上顎の狭窄

上顎の歯列が内側に狭くなる状態。指を吸う際の頬の筋肉の圧迫などが関与します。

歯並びがV字型になりやすい、交叉咬合(上下の歯の横の噛み合わせが逆になる)の原因となる。

大切なのは、4歳以降も続く場合は、歯並びだけでなく、口腔機能の発達にも影響が出始めるため、具体的な対策を考えることが必要です。

指しゃぶりを止める方法

指しゃぶりを卒業させたい保護者の方へ

指しゃぶりを止めるためには、無理に叱ったり、指を引っ張ったりするようなネガティブなアプローチは避けることが重要です。指しゃぶりはお子様にとって精神的な安定剤のような役割を担っていることが多く、強引に止めさせるとかえってストレスになり、隠れて指しゃぶりをするなど逆効果になる可能性があります。大切なのは、お子様の成長段階と心に寄り添いながら、自然に卒業を促すための環境を整えることです。

卒業を促すためのアプローチ

具体的な方法とポイント

安心感の確保と共感

指しゃぶりをするのは、不安や寂しさ、退屈を感じている時が多いです。日頃からスキンシップを増やし、話を聞いてあげる時間を作るなど、愛情を十分に伝え、お子様の不安を取り除くことが根本的な解決につながります。「指しゃぶりはダメ」ではなく、「どうして指しゃぶりをしたのかな?」と気持ちに共感しましょう。

代わりの行動の提案

手や指を使う別の遊び(積み木、お絵描き、粘土、お手伝いなど)に誘い、指が口に行くのを防ぎましょう。寝る前など、特定の時間帯に指しゃぶりをする場合は、お気に入りのタオルやぬいぐるみなどを与え、指以外の安心できるものに置き換える工夫も有効です。

習慣の「見える化」

お子様と協力して、指しゃぶりをしなかった日にシールを貼るなど、成功を褒めてあげる仕組みを作りましょう。指しゃぶりをしない時間が長くなったら、大げさに褒めるなど、ポジティブな動機付けをすることが大切です。

専門的な介入

4~5歳を過ぎてもやめられない場合や、歯並びへの影響が懸念される場合は、歯科医師や小児科医、心理士など専門家のアドバイスを求めましょう。特に歯並びへの影響が強い場合は、歯科医院で「指しゃぶり防止装置」などを使用し、物理的な介入を行うことも選択肢の一つになります。

お子様が自分で「やめよう」と決意することが最も効果的です。目標の時期(幼稚園入園や小学校入学など)を一緒に決め、焦らず、根気強く見守ってあげてください。

矯正治療が必要になるケースとは?

指しゃぶり後の歯並びが気になる方へ

指しゃぶりを止めた後、多くのケースでは歯並びが自然に改善していきますが、長期間にわたり強い指しゃぶりが続いていた場合、歯や顎の骨の変形が定着してしまい、自然治癒が難しくなることがあります。そのような場合、将来的な本格矯正を回避したり、その負担を軽減したりするために、小児矯正(一期治療)が必要になることがあります。特に以下のような状態が見られる場合は、歯科医師による早めのチェックが推奨されます。

小児矯正(一期治療)の検討が必要な状態

歯並びの状態

特徴と矯正の必要性

開咬(かいこう)の持続

指しゃぶりを止めても、上下の前歯の間に隙間が残っている状態。この隙間が残っていると、舌を前に突き出す癖(舌突出癖)が定着しやすく、この癖が歯並びを悪化させ続ける二次的な原因となります。

上顎前突(出っ歯)

上の前歯が著しく前方に傾斜している、または上顎の骨全体が前に出ている状態。見た目の問題だけでなく、前歯をぶつけやすく、折ってしまうリスクも高まります。

上顎の幅の狭さ(狭窄)

上顎の歯列の幅が狭くなり、奥歯の噛み合わせが横にずれている(交叉咬合)状態。成長期に顎を広げる治療を行うことで、永久歯が正しく並ぶための土台を作ることが可能になります。

舌の癖(低位舌・舌突出癖)

指しゃぶりによって舌が正しい位置(上あごのスポット)に置けなくなり、口呼吸が習慣化しているケース。歯並びの悪化を防ぐために、舌のトレーニング(MFT:口腔筋機能療法)や専用の装置が必要になることがあります。

小児矯正の目的は、単に歯を並べることではなく、指しゃぶりによって生じた顎の成長のアンバランスを整え、お口の機能を改善することにあります。最も理想的なのは、永久歯が生え始める前の5~6歳頃までに指しゃぶりを卒業させることです。もし歯並びへの影響が心配な場合は、一度歯科医院で相談し、お子様の成長段階に合わせた最適なアドバイスを受けてください。

まとめ

お子様の健やかな成長を願う保護者の方へ

お子様の指しゃぶりは、ほとんどの場合、成長の過程で自然に卒業していく行動であり、過度に神経質になる必要はありません。しかし、将来の歯並びや顎の成長、そしてお口の機能に影響を及ぼすリスクがあるため、4歳を目安に卒業できるように、保護者の方が優しく見守り、サポートすることが大切です。

最も重要なのは、指しゃぶりを無理に止めさせるのではなく、お子様の心理的な状態を理解し、安心感を与えながら、指以外の代わりの安心できる対象や、楽しい活動に意識を向けてあげることです。

指しゃぶりに関する重要なポイント

  • 3歳頃まで: 多くの場合は自然にやめることで、歯並びの異常は自然に改善する傾向があります。
  • 4歳以降: 頻繁に続くと、開咬(前歯が噛み合わない)や出っ歯などの不正咬合、舌の癖(低位舌)が定着しやすくなります。
  • 予防と対策: 指しゃぶりを止めるためのポジティブな動機付けを行い、同時に口腔機能の発達を促すことが重要です。
  • 専門家への相談: 4~5歳を過ぎてもやめられない場合や、すでに歯並びに大きな変化が見られる場合は、早期の歯科相談を推奨します。

お子様の歯並びは、永久歯が生えそろうまでの成長期に、様々な習慣や癖によって影響を受けます。もし、指しゃぶりの癖がなかなか抜けず、歯並びへの影響が心配であれば、一度歯科医院で相談することで、お子様に寄り添った具体的なアドバイスや、歯並びの進行をチェックする機会が得られます。お子様の健やかな成長と、未来の美しい笑顔のために、正しい知識と優しいサポートで対応していきましょう。

 

当記事の監修editor

院長 宍戸孝太郎
医療法人社団 孝親会 理事長
宍戸 孝太郎
資格・所属学会
厚生労働省認定歯科医師臨床研修医指導医
SBC(Surgical Basic Course 歯周形成外科コース)インストラクター
SAC講師
club SBC
日本口腔インプラント学会認定医
日本口腔外科学会会員