歯科コラム

COLUMN

お子様が正しい姿勢で食事をする重要性
お子様の治療

お子様の食事の姿勢にお悩みの親御様へ

お子様がごはんを食べる時、椅子の上で落ち着きなく動いてしまったり、背中が丸まっていたり、頬杖をついていたり、といった様子を見て、姿勢について注意を促すことはありませんか。単なる行儀の問題と捉えられがちな食事中の姿勢ですが、実はお子様の健やかな成長、特にお口周りの発達に深く関わっている重要な要素です。悪い姿勢での食事は、食べ物をうまく噛めないだけでなく、飲み込み方や顎の成長、さらには歯並びにも影響を及ぼす可能性があります。日々の食事の時間は、栄養を摂取する大切な時間であると同時に、お口の機能を正しく育むためのトレーニングの時間でもあります。当院では、お子様が将来にわたって健康なお口を保てるよう、正しい食事の姿勢がなぜ大切なのか、どのような姿勢が理想的なのかを、歯科医師の視点から分かりやすく解説いたします。お子様の食事の姿勢に疑問や不安を感じている親御様にとって、この記事が新たな気づきとなれば幸いです。

お子様の食事の際の姿勢が気になる

小さなお子様を持つ親御様へ

お子様の食事の姿勢について、具体的にどのような点が気になるでしょうか。多く見られるのは、食事中に背もたれにもたれかかりすぎている、前のめりになりすぎている、椅子の上で足をぶらぶらさせている、または片足立ちのような不安定な座り方をしているといったケースです。これらの姿勢は、一見すると「行儀が悪い」という問題に留まらず、お子様の「噛む」「飲み込む」といった摂食嚥下機能の発達を妨げる原因になり得ます。

特に注意したい、食事の際に多く見られる「気になる姿勢」には、以下のようなものがあります。

  • 背もたれにもたれかかる: 仙骨座り(お尻を前にずらして背中が丸くなる座り方)になり、顎が前に出やすくなります。
  • 前のめりになる: 猫背になり、食べ物を飲み込む際の喉の通り道が圧迫されやすくなります。
  • 椅子の上で足をぶらぶらさせる: 体幹が不安定になり、噛む力や飲み込む動作に集中できません。
  • 頬杖をつく・片側だけで噛む: 顎の成長に左右差が生じたり、歯並びの乱れにつながったりするリスクを高めます。

例えば、背中が丸まった状態で食事をすると、自然と顎が前に突き出たり、うつむきがちになったりします。この状態では、食べ物を奥歯でしっかりと噛み砕くための顎の動きが制限されやすく、結果として丸呑みを助長したり、片側だけで噛む癖がついたりする原因になりかねません。また、不安定な姿勢は、食事中に集中力を欠きやすくさせ、誤嚥のリスクを高める可能性もあります。お子様の食事の姿勢は、単にテーブルマナーの一環ではなく、全身のバランス感覚やお口の機能育成に直結する非常に重要な習慣であることを理解することが大切です。日々の食事風景を改めて観察し、食事中の姿勢が安定しているか、自然な状態であるかを確認してみましょう。小さなサインを見逃さず、適切なサポートを行うことが、お子様の将来の口腔健康を守る第一歩となります。

正しい姿勢とは?

食事中に落ち着いて食べることを願う親御様へ

お子様にとっての「正しい姿勢」とは、見た目の美しさだけではなく、食事を円滑に進め、お口周りの健全な機能発達を促すための土台となる姿勢を指します。具体的には、体幹が安定し、足裏がしっかりと床または足台についている状態が理想です。この「足裏がつく」という点が非常に重要で、足が宙に浮いた状態では、体のバランスをとるために無意識に余計な力が入ってしまい、集中力が続かず、食事に専念することが難しくなります。

安定した正しい食事の姿勢のポイントは以下の通りです。

  • 足裏が完全に床または足台についている: 体幹の安定に不可欠であり、食事への集中を促します。
  • 深く腰掛けている: お尻全体が椅子に収まり、背筋が自然と伸びるようにします。
  • テーブルと体の距離が適切: お腹とテーブルの間に握りこぶし一つ分程度の空間があるのが理想です。近すぎると窮屈になり、離れすぎると前のめりになりやすいです。
  • 両肘が自然にテーブルの上に乗る高さ: 肩が上がらず、スムーズに食べ物を口に運べる高さが適切です。

また、椅子とテーブルの高さのバランスも大切です。テーブルが高すぎると肩が上がってしまい、低すぎると背中が丸まってうつむきがちになり、どちらも咀嚼(噛むこと)や嚥下(飲み込むこと)の動作を不自然にしてしまいます。安定した姿勢は、食べ物を口に運ぶ動作をスムーズにし、さらに奥歯でしっかりと噛み砕き、安全に飲み込むための舌や喉の動きをサポートします。姿勢を整えることは、食事の効率を高め、食べこぼしを減らすことにもつながります。正しい姿勢の理解は、お子様が無理なく、楽に、かつ効果的にお口を動かすための環境整備であると捉えてください。ご家庭の食事環境を見直し、お子様の体格に合った椅子の調整を試みることから始めてみましょう。

正しい姿勢で食事をする際のポイント

食事の時間をより豊かにしたい親御様へ

お子様が正しい姿勢を維持できるようになるには、環境を整えることと、習慣づけるための工夫が必要です。最も重要なのは、「正しい姿勢=楽な姿勢」であることをお子様自身が体感できるようにすることです。どんなに「正しい」とされても、座っていて苦痛を感じるようでは長続きしません。そのためには、まず食事の環境、つまり「道具」の調整が欠かせません。お子様の成長は早いため、椅子の座面や足台の高さを定期的に見直し、常に足裏がしっかりとつき、肘が無理なくテーブルに乗る状態を維持することが重要です。足台がない場合は、厚めの本や安定した台を活用するだけでも大きな改善が見込めます。

次に、姿勢を意識しすぎるあまり、食事の時間が注意される時間」にならないように配慮が必要です。食事中に何度も「背筋を伸ばして」と注意するよりも、正しい姿勢で座れた時に「綺麗に座れているね」「安定して食べられていいね」と肯定的な声かけをすることの方が効果的です。また、食卓全体で「いただきます」の前に一度、全員で深く椅子に座り直すといったルーティンを取り入れることも有効です。

正しい姿勢を習慣づけるための具体的なポイント

  • 座る環境の徹底的な見直し: 椅子、テーブル、足台の高さがお子様の体格に合っているかを測り直しましょう。
  • 食事の道具の選択: お茶碗やコップが重すぎたり、大きすぎたりすると、それを持ち上げる動作で姿勢が崩れやすくなります。
  • 食事前の深呼吸: 一度深く椅子に座り直し、リラックスすることで、自然と良い姿勢を意識させます。
  • 短い時間から慣らす: 最初から食事の終わりまで完璧な姿勢を求めず、食事が始まる数分間だけ意識させるなど、徐々に時間を延ばします。

これらの工夫を通じて、お子様が自然と正しい姿勢で食事を摂ることが、快適でおいしい食事につながるというポジティブな感覚を育んでいくことが、何よりも重要となります。

正しい姿勢での食事が及ぼす口腔内への影響

お子様の将来の歯並びが気になる親御様へ

正しい姿勢での食事が単に「行儀が良い」というレベルの話に留まらないのは、それがお子様の口腔機能の発達に直接的な影響を与えるからです。特に、顎の発達、舌の動き、そしてそれに伴う歯並びの形成に重要な役割を果たします。例えば、背中が丸まり、頭が前に突き出た姿勢(猫背)で食事をすると、舌の動きを支えるための喉や首の筋肉が緊張し、舌が本来あるべき正しい位置(上顎のスポット)に収まりにくくなります。舌が正しい位置にないと、嚥下(飲み込み)の際に舌が歯を押す癖(舌突出癖)が生じやすくなり、出っ歯(上顎前突)や開咬(奥歯を噛んでも前歯が閉じない状態)といった不正咬合の原因となることがあります。

また、安定した正しい姿勢は、食べ物を左右の奥歯でバランス良く、しっかりと噛む「咀嚼」を促します。不安定な姿勢では、無意識に片側の顎に負担をかけたり、咀嚼回数が減って丸呑みになったりしがちです。

正しい姿勢が口腔内に与えるポジティブな影響

  • 舌の正しい位置の獲得: 安定した体幹は、舌が上顎に収まりやすくなり、正しい嚥下をサポートします。
  • 顎の均等な発達: 左右の奥歯でバランス良く噛むことが促され、顎の骨が均等に成長する土台を作ります。
  • 唾液の分泌促進: よく噛むことで唾液が多く分泌され、これは虫歯予防や消化吸収に役立ちます。
  • 正しい飲み込み方の習得: 適切な姿勢で頭の位置が安定することで、口周りの筋肉が正しく機能し、誤った飲み込み方の癖を防ぎます。

このように、食事の際の姿勢は、お子様のお口の中の環境、つまり歯並びや噛み合わせを形作る重要な要素なのです。毎日の食事の積み重ねが、将来のお口の健康を左右することを認識し、正しい姿勢を意識して食事をする習慣を確立することが、お子様の健康な未来への投資となります。

正しい姿勢を心がけて食事をとりましょう

お子様の食事の質を高めたい親御様へ

お子様の食事の姿勢を改善することは、一朝一夕に完了するものではありません。それは、単なるマナーの指導ではなく、お子様の体の使い方、お口の機能、そして心の成長をサポートする継続的な取り組みです。大切なのは、親御様が焦らず、毎日の食事の時間を「お子様と一緒に成長する機会」と捉えることです。完璧な姿勢を求めすぎるあまり、食事の時間がストレスや義務感に変わってしまっては本末転倒です。まずは、食事のスタート時に「足がちゃんとついているかな?」「背中が伸びているかな?」といった、簡単なチェックと声かけを習慣づけることから始めましょう。

正しい姿勢の継続のために家庭でできること

  • 家族全員で姿勢を意識する: 親御様自身も、食事の際に正しい姿勢で座る姿をお子様に見せることは、最も効果的な教育の一つです。
  • 環境の「再点検」を定期的に行う: お子様の成長に合わせて、椅子や足台の高さを月単位で確認し、常に最適な状態に保ちます。
  • 食事以外の時間にも姿勢を意識する: 遊びや学習の時間など、食事以外の座る姿勢にも目を配り、良い姿勢の習慣を定着させます。
  • 頑張りを具体的に褒める: 姿勢が崩れたときに注意するよりも、少しでも正しい姿勢を維持できた時に「しっかり座って噛めてるね」と具体的に褒めることで、お子様のモチベーションを高めます。

正しい姿勢での食事は、しっかりと噛むことを促し、食べ物の味や食感を深く感じることにつながり、食事そのものを豊かな体験へと変えていきます。この積み重ねが、お子様の健康な顎の発達、きれいな歯並び、そして生涯にわたる健やかな食生活の土台を築くのです。日々の食卓で、お子様の成長を温かく見守りながら、正しい姿勢を心がける習慣を大切にしていきましょう。

 

当記事の監修editor

院長 宍戸孝太郎
医療法人社団 孝親会 理事長
宍戸 孝太郎
資格・所属学会
厚生労働省認定歯科医師臨床研修医指導医
SBC(Surgical Basic Course 歯周形成外科コース)インストラクター
SAC講師
club SBC
日本口腔インプラント学会認定医
日本口腔外科学会会員