歯科コラム

COLUMN

「痛くなってから」ではもう遅い?10年後も自分の歯で噛むための「オーダーメイド予防歯科」
予防ケアについて

「歯医者には、歯が痛くなってから行けばいい」 もしあなたがそう思われているとしたら、歯科医師として少し厳しい現実をお伝えしなければなりません。実は、「痛み」を感じた時点で、むし歯や歯周病はすでにかなり進行してしまっていることが多いのです。

痛いところを削って詰める「治療(Cure)」を繰り返しても、残念ながら歯は元通りにはなりません。むしろ、削るたびに歯は脆くなり、最終的には抜歯へと近づいてしまいます。一生ご自身の歯で美味しく食事を楽しむために必要なのは、悪くなってから治すことではなく、悪くならないように守る「予防(Care)」です。当院では、患者様一人ひとりのお口のリスクに合わせた「オーダーメイドの予防歯科」に力を入れています。この記事では、なぜ今「予防」が必要なのか、そして当院が実践する予防プログラムについてお話しします。

なぜ「予防」が必要なのか?欧米と日本の歯の残存数の決定的な違い

「年をとれば、歯は自然と抜けていくものだ」と諦めていませんか? 実は、それは大きな誤解です。しっかりと管理さえしていれば、年齢を重ねても多くの歯を残すことは可能です。それを証明しているのが、予防歯科先進国と呼ばれるスウェーデンやアメリカのデータです。

80歳の方の平均残存歯数(残っている歯の本数)を比較すると、予防の習慣が根付いているスウェーデンでは「約20本」であるのに対し、日本では近年改善傾向にあるものの、まだ「約15本程度」というデータがあります。この差はどこから来るのでしょうか? それは、歯科医院に行く「目的」の違いです。欧米では「歯が悪くならないようにクリーニングに行く」のが当たり前ですが、日本では「歯が痛くなってから治療に行く」のが一般的です。

「治療して治った」と思っても、それは人工物で修復したに過ぎません。一度削った歯は、継ぎ目から再び菌が入り込みやすくなり(二次カリエス)、再治療を繰り返す「負のサイクル」に陥ります。このサイクルを断ち切り、健康な歯を守り抜く唯一の方法こそが「予防歯科」なのです。

一人ひとりリスクは違う!あなた専用の「オーダーメイド予防プログラム」とは

「毎日しっかり歯磨きをしているのに、なぜかむし歯になってしまう」 そんな経験はありませんか? 実は、お口の中を環境やリスクは、顔や性格が違うように、一人ひとり全く異なります。

  • なぜ「オーダーメイド」なのか
    むし歯になりやすい人、歯周病になりやすい人、歯石がつきやすい人……。それぞれの「弱点」が違うのに、全員に同じ予防法を行っても効果は限定的です。例えば、むし歯菌が多い方に歯周病のケアばかりしても、むし歯は防げません。 当院では、流れ作業のようなクリーニングは行いません。まずは、精密な検査やカウンセリングを通じて、あなたの「お口のリスク(病気の原因)」を突き止めます。唾液の質、細菌の数、歯並び、生活習慣などを総合的に分析し、あなただけの「予防プログラム」を作成します。
  • プログラムの一例
    • むし歯リスクが高い方: 歯の質を強化する「高濃度フッ素」の塗布を重点的に行い、間食の摂り方などの食事指導を組み合わせます。
    • 歯周病リスクが高い方: ご自身では磨きにくい歯周ポケット(歯と歯茎の溝)の深さを徹底的に洗浄し、歯周病菌の温床となる歯石を除去します。また、歯間ブラシやフロスの適切なサイズ選びと使い方の指導を徹底します。

ご自身のリスクを正しく知ることが、効率的で確実な予防への第一歩となります。

歯を失う2大原因「むし歯」と「歯周病」を未然に防ぐメカニズム

日本人が歯を失う原因の約80%は、「むし歯」と「歯周病」によるものです。これらは全く別の病気のように思えますが、実はどちらも「細菌による感染症」であるという共通点があります。

  • むし歯のメカニズムと予防
    むし歯は、ミュータンス菌などの細菌が、口の中の「糖分」をエサにして「酸」を作り出し、その酸が歯を溶かす(脱灰)ことで起こります。 予防のポイントは、「細菌を減らすこと(プラークコントロール)」「歯を強くすること(フッ素活用)」「糖分の摂取回数をコントロールすること」の3つです。特に、初期のむし歯(CO)であれば、フッ素塗布や適切な管理によって、削らずに再石灰化(修復)させることが可能です。
  • 歯周病のメカニズムと予防
    歯周病は、歯と歯茎の間に溜まった細菌(プラーク)が毒素を出し、歯茎に炎症を起こし、最終的には歯を支える骨を溶かしてしまう病気です。痛みなく静かに進行するため「サイレント・ディジーズ(静かなる病気)」とも呼ばれます。 予防の絶対条件は、歯周ポケットに入り込んだ細菌の塊(バイオフィルム)や歯石を、プロの手で徹底的に除去することです。ご自身の歯磨きだけでは届かない深い部分の汚れを取り除くことで、炎症を食い止め、骨の吸収を防ぎます。

当院の予防プログラムでは、これらの細菌を目に見える形で管理し、お口の環境を「病気が発生しにくい状態」にコントロールし続けます。

リラックスできる空間で受けるプロのメンテナンス

「歯医者=痛い治療を我慢する場所」というイメージをお持ちではありませんか? 当院の予防歯科は、そのようなネガティブな場所ではありません。むしろ、美容院で髪を整えたり、エステで肌をケアしたりするのと同じように、「お口の中をサッパリときれいにする場所」です。

  • 国家資格を持つ歯科衛生士が担当
    予防ケアの主役は、歯科医師ではなく「歯科衛生士」です。当院では、トレーニングを積んだプロの歯科衛生士が、あなたのお口のパートナーとして担当します。専用の器具を使って歯の表面をツルツルに磨き上げる「PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)」は、痛みどころか「心地よくて眠ってしまった」とおっしゃる患者様も多いほど、非常に気持ちの良い処置です。
  • サロンのようなリラックス空間
    当院は、「病院らしさ」を感じさせない空間づくりにもこだわっています。特有の薬品の匂いを抑え、リラックスできるインテリアや音楽を採用しています。ドリルの「キーン」という音が響く緊張感のある治療室とは異なり、ゆったりとした気持ちでメンテナンスを受けていただけます。

「汚れが取れてスッキリした」「歯がツルツルになって気持ちいい」。そんな爽快感を味わうために、数ヶ月に一度、自分へのご褒美として通っていただく。それが、私たちが目指す新しい歯科医院の通い方です。

まとめ

車検を受けずに車に乗り続ける人がいないように、毎日使う大切な歯も、定期的なメンテナンスなしに使い続けることはできません。「痛くなってから」の治療は、マイナスをゼロに戻す作業に過ぎませんが、「痛くなる前」の予防は、今の健康というプラスの状態を未来へと繋ぐ「投資」です。

10年後、20年後に「あの時、予防を始めておいて良かった」と笑顔で美味しい食事を楽しんでいただくことが、私たち歯科医療従事者にとって一番の喜びです。

まだ痛みがない今こそが、スタートする絶好のタイミングです。まずは検診で、ご自身のお口の状態を知ることから始めてみませんか? 私たちが全力で、あなたの健康なお口づくりをサポートいたします。

 

当記事の監修editor

院長 宍戸孝太郎
医療法人社団 孝親会 理事長
宍戸 孝太郎
資格・所属学会
厚生労働省認定歯科医師臨床研修医指導医
SBC(Surgical Basic Course 歯周形成外科コース)インストラクター
SAC講師
club SBC
日本口腔インプラント学会認定医
日本口腔外科学会会員