「毎日欠かさず歯磨きをしているのに、なぜか虫歯ができてしまう」 「歯茎が腫れたり、出血したりするのを繰り返している」 当院の検診に来られる患者様から、このようなご相談をいただくことがよくあります。一生懸命磨いているのに結果が出ないと、「自分の歯質が弱いから仕方ない」と諦めてしまいそうになるかもしれません。
しかし、その原因の多くは、歯質ではなく「磨き残し」と「落としきれない汚れ」にあります。実は、どんなに歯磨きが上手な方でも、ご自身のケア(セルフケア)だけで落とせる汚れは、全体の60%〜80%程度が限界だと言われています。残りの20%〜40%の汚れを落とすために不可欠なのが、歯科医院で行うプロフェッショナルケア「PMTC」です。この記事では、なぜ歯磨きだけでは不十分なのか、そしてプロのクリーニングは何が違うのかについて、詳しく解説します。
バイオフィルムって何?歯ブラシでは落としきれない汚れの正体
毎日歯を磨いているのに、なぜ汚れが残ってしまうのでしょうか。その最大の敵が「バイオフィルム」です。 バイオフィルムとは、細菌同士が結びつき、ネバネバとした膜を作って歯の表面に張り付いた状態のことです。分かりやすく例えるなら、台所の排水溝や、お風呂場の床にできる「ヌルヌルとした汚れ」と同じようなものです。
このバイオフィルムは非常に厄介な性質を持っています。
- 強力に張り付いている うがい薬や水流では流されず、歯ブラシで軽く擦った程度では完全に破壊できません。
- 薬をブロックする バリアのような役割を果たすため、抗菌剤やフッ素などの薬効成分が歯の内部まで浸透するのを防いでしまいます。
- 細菌の要塞となる この膜の中で細菌が繁殖し、酸や毒素を出し続けることで、虫歯や歯周病を進行させます。
このバイオフィルムを、物理的かつ徹底的に破壊して剥がし落とすことができる唯一の方法が、次に紹介する「PMTC」なのです。
ツルツルで気持ちいい!プロによる徹底クリーニング「PMTC」の効果
PMTCとは「Professional Mechanical Tooth Cleaning」の略で、日本語に訳すと「専門家による専用機器を使った歯のクリーニング」のことです。これは、毎日の歯磨きではどうしても落とせないバイオフィルムや着色汚れ(ステイン)を、歯科衛生士が特殊な機材を使って徹底的に除去する処置です。
- PMTCで得られる3つの効果
- バイオフィルムの完全除去 ゴム製のカップや柔らかいブラシ、そして専用のペーストを使用し、歯と歯の間や、歯と歯茎の境目(ポケット)に潜むバイオフィルムを物理的に剥がし落とします。これにより、むし歯や歯周病の原因菌をリセットします。
- 歯質の強化と再石灰化の促進 バイオフィルムを取り除いた後の歯は、裸の状態です。ここに高濃度のフッ素を塗布することで、カルシウムなどのミネラル分が歯に浸透しやすくなり、歯質が強化され、再石灰化(修復)が促進されます。
- 汚れがつきにくい環境を作る ここが重要なポイントです。PMTCの最後には、歯の表面をツルツルに磨き上げます。表面が滑らかになることで、新たなプラーク(歯垢)や着色がつきにくくなり、清潔な状態を長くキープできるようになります。
施術後は、舌で触ると驚くほどツルツルになり、お口全体が軽くなったような爽快感を味わえます。痛みはなく、エステ感覚で受けていただけるのが特徴です。
間違った磨き方をしていませんか?歯科衛生士が教える正しいセルフケア
「毎日磨いている」と「きちんと磨けている」は、似ているようで全く違います。当院でブラッシング指導(TBI)を行うと、多くの方が自己流の磨き方をしており、知らず知らずのうちに歯や歯茎を傷つけてしまっているケースが見受けられます。
- 「力が強すぎる」問題 最も多い間違いが「ゴシゴシと強く磨きすぎている」ことです。「強く磨かないと汚れが落ちない」と思われがちですが、プラークは柔らかいため、毛先が当たってさえいれば弱い力でも十分に落ちます。逆に力が強すぎると、歯の根元が削れてしまったり(くさび状欠損)、歯茎が痩せて下がってしまったりする原因になります。歯ブラシの毛先が広がらない程度の「優しい力」が鉄則です。
- 「フロス」はオプションではなく必須 歯ブラシだけで落とせる汚れは、全体の約6割と言われています。残りの4割は、歯ブラシの毛先が届かない「歯と歯の間」に残っています。ここを掃除するには、デンタルフロス(糸ようじ)や歯間ブラシを使うしかありません。 欧米では「Floss or Die(フロスをしますか?それとも死にますか?)」という言葉があるほど、フロスは当たり前の習慣です。1日1回、夜寝る前だけで構いませんので、必ずフロスを通す習慣をつけてください。これだけで、むし歯や歯周病のリスクは劇的に下がります。
当院では、歯科衛生士が実際にあなたの磨き癖をチェックし、お口のサイズに合った歯ブラシの選び方や、正しい角度での当て方を丁寧に指導します。
「早期発見」がカギ!定期検診が将来の医療費と歯の寿命を救う理由
「痛くもないのに歯医者に行くと、お金がかかって損だ」と感じる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、長期的なデータで見ると、定期検診に通っている方の方が、生涯にかかる医療費が圧倒的に安くなることが分かっています。
- 治療費の節約になる むし歯や歯周病は、放置すればするほど重症化し、治療が大掛かりになります。神経を抜いたり、被せ物をしたり、抜歯してインプラントや入れ歯にしたりとなれば、数十万円〜数百万円単位の費用がかかることも珍しくありません。 一方、定期検診で初期の段階(痛みが出る前)に発見できれば、フッ素塗布や小さな詰め物だけで済むため、治療費は数千円程度で済みます。「悪くなってから大金を払う」か、「悪くならないように少額を払い続ける」か。後者の方が、トータルコストも身体的負担も軽く済みます。
- 歯の寿命を延ばす 歯は、削れば削るほど脆くなり、寿命が縮まります。一度も削っていない健康な歯と、治療を繰り返した歯では、強度が全く違います。 定期検診の最大の目的は、「削る必要がない状態」を維持すること、あるいは「削る量を最小限に抑えること」です。80歳になっても自分の歯でステーキを噛み切れる人生を送るためには、今のうちから「削らないための通院」を習慣化することが何よりの近道です。
まとめ
ご自宅での「セルフケア」と、歯科医院での「プロフェッショナルケア(PMTC)」のこの2つは、どちらか片方だけでは効果を発揮しません。車のメンテナンスに例えるなら、セルフケアは「日々の洗車や安全運転」、プロケアは「定期的な車検やプロによる整備」です。毎日きれいに乗っていても、車検に出さなければエンジン内部の不具合には気づけませんし、逆に車検に出していても、日々乱暴に扱っていればすぐに故障してしまいます。
「セルフケア」と「プロケア」。この両輪がうまく回って初めて、あなたの大切な歯を一生涯守り抜くことができます。
もし、しばらく歯科医院に行っていないという方がいらっしゃれば、ぜひ当院のPMTCを受けにいらしてください。痛みはありません。エステに行くような気軽な気持ちで、お口の中がリセットされる気持ち良さを体感していただければと思います。


